奥田佳道(音楽評論家)
これが、女と男の愛の破滅物語。内なる尽きせぬ想いが、もうこらえ切れなくなって、ついにあふれ出る趣。アレグロ・ブリランテ(輝かしく)と記された冒頭の楽想からメトロポリタン・オペラの首席指揮者ファビオ・ルイージのタクトが冴える。
フランスの文豪アベ・プレヴォ(1697~1763)の自伝的長篇小説のオペラ化で、主役は享楽的に生きる美女マノン・レスコーと、ある意味邪気のない彼女を一途に愛する青年デ・グリュー。レスコー軍曹の妹マノンは大蔵大臣ジェロントの愛人となる。 ジェロントを怒らせ、憲兵らによって追放されるマノン。そんな彼女を、地の果てまで追いかけてゆくデ・グリュー。二人の運命は、さて。
魔性の女マノン・レスコー。今この役と言えば、美貌と強じんな声を合わせ持つ北欧ラトヴィア出身の歌姫クリスティーヌ ・オポライスだ。2013年にプッチーニの《つばめ》(マグダ役)でMETにデビューしたオポライスへの喝采は増すばかり。METが誇る、若き大輪の華だけに、愛人のもとで贅沢三昧をしつつも愛のない生活は退屈と歌う第2幕のアリア〈柔らかなレースに包まれても〉ほか、魅せ場は枚挙にいとまがない。
魔性の女マノン・レスコー。今この役と言えば、美貌と強じんな声を合わせ持つ北欧ラトヴィア出身の歌姫クリスティーヌ ・オポライスだ。2013年にプッチーニの《つばめ》(マグダ役)でMETにデビューしたオポライスへの喝采は増すばかり。METが誇る、若き大輪の華だけに、愛人のもとで贅沢三昧をしつつも愛のない生活は退屈と歌う第2幕のアリア〈柔らかなレースに包まれても〉ほか、魅せ場は枚挙にいとまがない。
このオペラの主題を「セックスと死」と捉え、舞台を1940年代前半のパリ、つまりナチス・ドイツ占領下のパリに置き換えたイギリスの大御所リチャード・エアの新演出が素晴らしい。愛に溺れる主人公の心情、それに群集心理を鮮やかに映し出す。人々が行き交うターミナル駅、マノンが暮らす豪邸、それに波止場に刑務所が鍵を握る、とお伝えしておこう。終幕がまた衝撃的だ。場面設定の置き換え、読み替えが全く嫌みにならないどころか、逆にオペラの彫りの深さを際立たせる──そんなエアの演出は、今METに欠かせない。
作曲当時34歳 のプッチーニの才気がみなぎる《マノン・レスコー》。役者が揃ったようである。
写真(C)Ken Howard/Metropolitan Opera