プッチーニの濃密なオーケストレーションに埋もれることなく、オポライスの艶やかで表現力豊かな歌声が劇場内に響き渡った。純真でうら若い蝶々さんが、内気で恋に盲目な少女から、悲嘆に暮れ、夫への信頼を粉々に打ち砕かれ、怒りが滲む母親へと変貌を遂げていくさまを、オポライスが歌い演じる姿に何度も見入ってしまう自分がいた。…華麗な衣裳や斬新な舞台照明、紗幕や舞台天井の鏡など、本作の演出は見た目にも驚くほど美しい瞬間に満ちている。―The New York Times
さりげない演出、スマートで無駄のない舞台デザインの輝かしい功績により、ごくありふれた、アメリカ人の夫に捨てられる年若い日本人の花嫁のメロドラマが、痛切に胸を打つ悲劇へと進化した。METの蝶々さんとしてクリスティーヌ・オポライスは、20年程前に同役を歌ったダイアナ・ソビエロ以来、最も説得力のある蝶々さんだ。オポライスがいわゆる“歌う女優”と呼ばれているのも、彼女のパフォーマンスは、歌唱と演技がしっかりと一体化されているからだ。歌手としてだけ考えても、オポライスは本当に素晴らしいアーティストだ。特に中音域では、楽々と本能的にポルタメントを用い、優しく音程を変えることによりイタリア・オペラ独特の温かみと親密さを引き出す。彼女はなんとも大胆なアーティストであり、オペラ鑑賞を人生観が変わるほどの喜びにしてくれる歌手だ。―The
New York Observer
クリスティーヌ・オポライスは、アラーニャという実に素晴らしい相手役に恵まれた。彼の代名詞たる快活なパワーとここぞの集中力を余すことなく発揮し、ピンカートン役として最高の演唱を披露していた。彼の歌声を聴くたびにぞくぞくと気持ちが昂り、米軍士官という役どころに、その人物が抱える複雑さを巧みに表現していた。アンソニー・ミンゲラの演出は、観るたびにその抗いがたい魅力がさらに増していくように思う。洗練された象徴的な踊りや、脳裏に焼き付くあまりにも人間的な文楽人形を演出に用いることによって、《蝶々夫人》を物語る難しさに独創的でわかりやすい解決策を見出している。
–New York
Classical Review
写真(C)Marty Sohl/Metropolitan Opera