2013年1月18日金曜日

METの総力を結集させた超大作!《トロイアの人々》のみどころ


いよいよ、ベルリオーズの超大作オペラ《トロイアの人々》がMETライブビューイングに登場する。

この作品は、19世紀フランスのロマン派音楽の革命児ベルリオーズが、少年時代に熱中したウェルギリウスの古代叙事詩を原作に、精魂傾けて完成させた歴史大河ドラマである。これまでは、あまりに演奏至難なため、作曲家の生前には完全な形の上演は行われず、フランス語での全曲上演は1969年にようやく実現している。日本ではまだ全曲舞台上演は行われていない。

1部の舞台となるトロイア、第2部の舞台となるカルタゴ、いずれも最初は群衆の歓喜によって始まり、平和の到来と国家の繁栄が歌われる。それに対し、トロイアの王女カサンドラとカルタゴの女王ディドーは、ひたむきな愛に生きようとしながらも破れ、国家の滅亡の未来を見通しおののくという点で共通するヒロインである。

トロイアの人々》では、群衆を受け持つ合唱が重要な役割を果たすが、この群衆は、純粋で善良でありながらも、いとも簡単に欺かれ、歓喜し、悲嘆し、畏れ、怒り、混乱し、繁栄から破滅への道を突き進んでいく。それに対置されるのが、賢明ではあるが、孤独な宿命に苦しむ、個人の愛の悲劇なのである。

こうしたロマン主義の極致ともいうべき大河オペラは、METのもっとも得意とするところ。《トロイアの人々》を上演するためには、5時間以上にも及ぶ演奏時間を乗り切るスタミナに加え、観客を楽しませるに足るスペクタクル性が欠かせないからだ。その点、今回のMETのザンベッロ演出の舞台は、キャスト、スタッフ合わせて1000人規模という《アイーダ》に匹敵する壮麗さ。映像カメラワークともども、迫真のドラマを展開してくれるに違いない。

第一の聴きどころは合唱。ベルリオーズならではの豪快かつ繊細な管弦楽とともに、この曲では合唱が大活躍する。METの合唱は、体質的にとてもロマンティックなので、この難曲をものともせずダイナミックに歌ってくれるはずだ。

二人のヒロインを歌うのが、デボラ・ヴォイト(カサンドラ役)とスーザン・グラハム(ディドー役)という、豊かな情感と芯の強い声を持った歌手であることも、期待をそそる。まさに適役である。

この大作が、首席指揮者ファビオ・ルイージの棒によってどのように燃え上がり、鮮烈に表現されるかも聴きものである。

日本では未だにヴェールの向こうにあるといっていい《トロイアの人々》を鑑賞するのに、今回のMETライブビューイングは絶好のチャンスといえる。

林田直樹(音楽ジャーナリスト)
写真(C)Cory Weaver/Metropolitan Opera 
上から4つ目のみ(C) Ken Howard/Metropolitan Opera