2013年4月1日月曜日

永遠の悲恋物語《フランチェスカ・ダ・リミニ》現地レポート


永遠の悲恋物語、フランチェスカとパオロ

池原麻里子(ジャーナリスト)

フランチェスカ・ダ・リミニ(またはダ・ポレンタ)は、13世紀イタリアに実在した女性でラヴェンナ領主ポレンタ家の出身。父は政敵マラテスタ家との争いを終わらせるべく、娘をリミニ領主ジョヴァンニ・ポレンタに嫁がせた。フランチェスカはジョヴァンニの弟パオロ(既婚者)と恋に陥り、10年以上も恋愛関係を続けた。が、ジョヴァンニがフランチェスカの寝室にいた両人を殺すことで、不倫に終止符を打つ。

フランチェスカとパオロの悲恋は、多くの芸術作品の題材として取り上げられて来た。ダンテが名作「神曲」で、フランチェスカがクレオパトラやトロイ戦争の原因となったヘレナらとともに、愛欲者の地獄で永遠に苦しむ姿を描いたのが最初。その後はアングルの絵画、ロダンの彫刻「接吻」(原題は「フランチェスカ・ダ・リミニ」)、チャイコフスキーの幻想曲、ラフマニノフのオペラなどが特に有名だ。1901年にはイタリアの作家ガブリエーレ・ダヌンツィオ(1863-1938)が、ダンテのたった38行の詩を劇化した。


このロマンティックな題材をオペラ化(1914年作)したのが、リッカルド・ザンドナーイだ。当時、プッチーニがそのグランド・オペラ化を拒否したために、台本がザンドナーイに回ったのだ。ワグナー的壮大さ、感情をむき出しにするヴェリズモ・スタイルに、グランド・オペラのスペクタクルが組み合わさった、イタリア歌劇でも最も野心的なオペラの1つだ。

オペラでは、ジョヴァンニが醜い容姿だったので、ハンサムな弟パオロを代理人に結婚式を執り行ったというストーリーになっている。パオロとフランチェスカは互いに一目惚れ。政略結婚後、ある日、フランチェスカとパオロは、アーサー王物語のグイネヴィア王妃と騎士ランスロットの悲恋を読み、感情を抑えきれなくなり、熱いキスを交わす。彼らの秘め事を末弟から通告されたジョヴァンニは嫉妬に狂い、密会中の2人を殺してしまう。

本作品はトリノでの初演から2年後にMETでも初演され、1918年まで上演された。その後は1984年にレナータ・スコットとプラシド・ドミンゴが共演。今回は1986年以来の27年ぶりの上演で、当時のゴージャスなピエロ・ファッジョーニのプロダクションが蘇った。

タイトル役はオランダが誇るドラマティック・ソプラノ、エヴァ=マリア・ヴェストブルック。20世紀初めのヴェリズモ・オペラで有名なイタリア歌手達が本作品を褒め称えていたことから興味を抱き、その一人、イリス・アダミ・コラデッティに学んで以来、フランチェスカのファンなのだそうだ。特に第三幕のキスに至るまでの盛り上がりが最高だと語る。ザンドナーイはドビュッシー、シュトラウスといった当時、尊敬していた作曲家たちの斬新性を取り入れながらロマンティックな作風を取り入れているのだ。

ヴェストブルックは叙情的な場面ではフランチェスカのソフトな面、パオロに思いを馳せるロマンティックな姿を演じ、フル・オーケストラの場面ではしっかりドラマティックな声を場内に通らせていた。低・中音域はダークで暖かみがあり、トップは力強い声の持ち主だ。

悲恋の相手はベテラン、マルチェッロ・ジョルダーニ。長身のヴェストブルックとお似合いのパートナーだ。ジョルダーニの甘い声も高音がよく通り、情熱的で気品があるパオロを熱演してくれた。パオロの兄弟役のマーク・デラヴァン、ロバート・ブルーベイカーたちも好演。

この壮大な作品を指揮するのはMETおなじみのマルコ・アルミリアート。第一幕のフランチェスカとパオロが出会うシーンのチェロ独奏が美しい。またこのプロダクションは幕ごとに変わる大掛かりなセット、そしてゴージャスな衣装が目を楽しませてくれる。ライブビューイングは、出演者たちの本作品に対する思い入れなどを幕間に聞きつつ、稀にしか上演されないこのグランド・オペラを観るまたとないチャンスだ。

写真(C) Marty Sohl/Metropolitan Opera