2014年12月3日水曜日

超人気作にパワフルで実力ある歌手陣が集結!《カルメン》のみどころ

                               石戸谷結子(音楽ジャーナリスト)


自由奔放で情熱的だけれど、ちょっと気まぐれ。どこかミステリアスな雰囲気もたたえた謎の美女、カルメン。歯切れのいい啖呵も切るけれど、繊細さも持ち合わせ、自分の運命の行く末も見えている頭脳明晰ないい女だ。

いまそのカルメン役で、もっとも注目を集め、世界各地の歌劇場からひっぱりだこなのが、グルジア出身のアニータ・ラチヴェリシュビリだ。まだスカラ座の研修生だったときに指揮者のバレンボイムに見出され、スカラ座の晴れ舞台に抜擢されたのだ。力強い歌唱と魅力的な演技、そしてカリスマ的な雰囲気をたたえたラチヴェリシュビリは、瞬く間にスター街道を駆け上った。MET の聴衆にもすっかりお馴染みで、大人気を博している。

 彼女のカルメン像は、ちょっと姐御的な雰囲気を持つ、気性の荒い大胆不敵な女性だ。そんなカルメンに魅了されるのが、アントネンコ扮する一途な真面目男のドン・ホセだ。アントネンコはムーティに見出されてザルツブルク音楽祭でオテロを歌って話題になったラトヴィア出身のドラマティック・テノール。ハンサムで堂々とした体格と情熱的な歌い方で、ラチヴェリシュビリと対等に渡り合う。その二人の間に割って入るのが、ミカエラ役のアニータ・ハーティッグだ。ミカエラのイメージ通りの清純で優しい女性で、ほっそりと美しく、声ものびやかなリリック・ソプラノ。ルーマニア出身でもあり、ゲオルギューの再来と噂されている実力派で演技もうまい。今回はこの3人がみごとにそれぞれの役にはまっていて、エキサイティングな舞台を創りあげている。

2幕からはこの3人に、魅力的なイルダール・アブドラザコフが加わる。《イーゴリ公》でも《フィガロの結婚》でも主役を歌ったMET の花形バス・バリトンで、背が高く美形で声は朗々と深い。まさにMET ならではの贅沢なキャスティングで、もつれた愛の四角関係は、ますます白熱していく。

 演出のリチャード・エアは、イギリスのシェイクスピア劇を得意とする人だけに、すみずみまで目がいき届いた演劇的な舞台が特徴だ。また随所でフラメンコ・ダンスやモダン・バレエをアクセントに挿入し、エキゾチックな雰囲気を盛り上げていて、目が離せない。指揮のパブロ・エラス=カサドは、このところにわかに注目されている若手。スペイン出身で、バロックオペラや現代オペラを得意としているが、MET では《リゴレット》でデビューして成功を収め、今回の再登場となった。繊細でニュアンスに富んだ指揮ぶりで《カルメン》をドラマチックにまとめあげた。この舞台、パワフルで実力ある歌手が揃っていることと、演出・指揮ほか全体のバランスが取れていることが、大きな魅力だ。

 《カルメン》は世界中で、常にベスト5にランクされる超人気作品。誰もが知っている「ハバネラ」や「闘牛士の歌」、有名な「前奏曲」など、エキサイティングなメロディが満載された、エスプリの効いたフランス・オペラの傑作だ。妖艶なカルメンに魅せられ、人生を転げ落ちていくドン・ホセの生きざまを、ぜひ大スクリーンで実感してみてください。

                                                                (c)Ken Howard/Metropolitan Opera