自由奔放で情熱的だけれど、ちょっと気まぐれ。どこかミステリアスな雰囲気もたたえた謎の美女、カルメン。歯切れのいい啖呵も切るけれど、繊細さも持ち合わせ、自分の運命の行く末も見えている頭脳明晰ないい女だ。
いまそのカルメン役で、もっとも注目を集め、世界各地の歌劇場からひっぱりだこなのが、グルジア出身のアニータ・ラチヴェリシュビリだ。まだスカラ座の研修生だったときに指揮者のバレンボイムに見出され、スカラ座の晴れ舞台に抜擢されたのだ。力強い歌唱と魅力的な演技、そしてカリスマ的な雰囲気をたたえたラチヴェリシュビリは、瞬く間にスター街道を駆け上った。MET の聴衆にもすっかりお馴染みで、大人気を博している。
彼女のカルメン像は、ちょっと姐御的な雰囲気を持つ、気性の荒い大胆不敵な女性だ。そんなカルメンに魅了されるのが、アントネンコ扮する一途な真面目男のドン・ホセだ。アントネンコはムーティに見出されてザルツブルク音楽祭でオテロを歌って話題になったラトヴィア出身のドラマティック・テノール。ハンサムで堂々とした体格と情熱的な歌い方で、ラチヴェリシュビリと対等に渡り合う。その二人の間に割って入るのが、ミカエラ役のアニータ・ハーティッグだ。ミカエラのイメージ通りの清純で優しい女性で、ほっそりと美しく、声ものびやかなリリック・ソプラノ。ルーマニア出身でもあり、ゲオルギューの再来と噂されている実力派で演技もうまい。今回はこの3人がみごとにそれぞれの役にはまっていて、エキサイティングな舞台を創りあげている。
2幕からはこの3人に、魅力的なイルダール・アブドラザコフが加わる。《イーゴリ公》でも《フィガロの結婚》でも主役を歌ったMET の花形バス・バリトンで、背が高く美形で声は朗々と深い。まさにMET ならではの贅沢なキャスティングで、もつれた愛の四角関係は、ますます白熱していく。

(c)Ken Howard/Metropolitan Opera