2017年1月27日金曜日

ドミンゴ&レヴァイン夢の顔合わせ!《ナブッコ》みどころ

石戸谷結子(音楽評論家)


 華やかなMETライブビューイングのラインナップのなかでも、ひときわ目を引く豪華キャストが、《ナブッコ》だ。なにしろ、MET名誉音楽監督であるレヴァインが指揮し、ドミンゴが主役として登場するからだ。二人はこれまで40年以上にわたって共演してきた息の合ったコンビであり、マエストロ同士の夢の顔合わせだ。ドミンゴは今年76歳をむかえたが、新分野であるバリトンの役柄に積極的に挑み、次々とレパートリーを拡大しており、パワーは全く衰えていない。ナブッコは古代バビロニアの独裁者から狂気に陥り、改心して偉大な王になるという難しい役どころだが、ドミンゴならではの重厚な役作りと深い歌唱に、開幕前から期待が集まった。

METライブビューイングの当日、レヴァインは聴衆の大拍手に迎えられ、元気な姿を見せた。体調を崩した時期もあっただけに、晴れやかな笑顔で指揮するレヴァインがとても印象的だ。序曲から力強い、キレのいい音楽づくり。ヴェルディ初期の音楽の特徴であるエネルギッシュで軽快な旋律を、情熱を込めて奏でていく。


《ナブッコ》の舞台となるのは紀元前597年のエルサレムとバビロニア。旧約聖書に登場するネブカドネツァルを主人公とした「バビロン捕囚」のエピソードを下敷きにした物語だ。幕が開くとMETの大空間を生かした圧倒的スケールのソロモン神殿が浮かび上がる。2幕のバビロニア王宮も、高い大階段がそびえるスペクタクルな舞台だ。豪華な衣装に身をつつみ、堂々とした風格のドミンゴが、王ナブッコとして登場するシーンは第1幕のハイライト。演技力も抜群で低音も充実し、いまや第一線のヴェルディ・バリトンだ。この演目のもう一人の主役、アビガイッレを歌うのは、現代最高のドラマティック・ソプラノ、リュドミラ・モナスティルスカ。豊かな声量とパワフルな歌唱力を生かし、奴隷の子として生まれた複雑なキャラクターを熱唱する。ほかのキャストも、ザッカーリア役のディミトリ・ベロセルスキー、イズマエーレ役のラッセル・トーマス、フェネーナ役のジェイミー・バートンと、旬の実力派歌手がずらりと顔を揃えている。いずれも声量が十分で、表現力にも優れ、まさに名歌手による声の競演となった。
 
《ナブッコ》は合唱がとくに重要で、各幕に聴きどころの名曲がある。最も有名なのは、3幕第2場で歌われる〈行け、わが想いよ、金色の翼にのって〉で、おそらく合唱曲のなかでは最高人気を誇る美しい旋律だ。イタリアでは第二の国歌ともいわれ、国民みんなに親しまれている。この曲が演奏されたあとでは拍手がなりやまず、アンコールされることも多いのだが、さて今回レヴァインはどうするのか。それも公演の見どころの一つだ。METの大合唱団は、この曲を圧倒的な迫力と深い解釈で、感動的に歌いあげた

 ヴェルディの3作目であり、出世作となった壮大なスケールの傑作《ナブッコ》。絢爛たる大スペクタクルに仕上げられた今回の舞台は、ドミンゴ・ファン、レヴァイン・ファンならずとも必見です。