2015年2月13日金曜日

"ブロードウェイの女王"METに初挑戦 《メリー・ウィドウ》現地レポート

 取材・文 米満ゆうこ
 
「クレイジー・フォー・ユー」「プロデューサーズ」など、ミュージカルの歴史に残る名作を生み出す演出家・振付家のスーザン・ストローマン。トニー賞を5度受賞し、現在も第一線を走り続ける〝ブロードウェイの女王〟が、今回初めてMET制作の《メリー・ウィドウ》でオペラの演出・振付に挑んだ。彼女のインタビューを交えてその模様をレポートする。

 METの入り口には《メリー・ウィドウ》の看板が大きく飾られ、BOXオフィスにあるスクリーンでは、ストローマンのインタビューや今作のリハーサルシーンを何回も流している。その場にいるだけで気分が高揚し、期待が高まってくる。

「ハーイ!」と、METの楽屋にあふれんばかりの笑顔で登場したストローマン。60歳とは思えないほど若々しくてエネルギッシュだ。「METほど大規模のサイズの舞台を手掛けるのは初めて。すべてのことが私にとっては挑戦ね」と話す。「ピーター・ゲルブ(MET総裁)が、ブロードウェイから次々と演出家を起用するのは素晴らしいと思う。私たちはブロードウェイの観客をよく理解しているし、新しい客層を増やすことができると思うの」と自信を見せる。「METでの私の仕事はオペラスターの声を観客に届けること。ミュージカルは演技や歌、踊りすべてが大事だけど、オペラは何よりも声が大事。どんな演出、振付のシーンでもオペラ歌手の発声がベストであるようにサポートしているの。また、彼らがリアルな登場人物としていかに舞台に存在できるかも私の腕にかかっている」

作品は、第1幕と第2幕ではルネ・フレミングとネイサン・ガンの優雅な歌声やワルツ、民族舞踊などが堪能できる。また、ストローマンと長年仕事をしてきたブロードウェイ出身のウィリアム・アイヴィー・ロングの妖艶な衣装も華を添える。何といってもストローマンが本領を発揮するのは、第2幕から第3幕への転換だ。「通常は休憩が入るのだけど、私はくっつけてカンカンダンサーが踊りながらキャバレー・マキシムに観客を誘うようにしたの」。ストローマン自らが選んだ生え抜きのダンサーたちが繰り広げるフレンチカンカンは、舞台に大輪のバラが次々と花開いていくような豪華絢爛さ。彼女の持ち味であるエレガントでセクシーな踊りが満載で「さすが!」の一言である。

さらに、今回METデビューを果たした、ヴァランシエンヌを演じるブロードウェイのトップ女優、ケリー・オハラにも注目だ。「彼女は大学でオペラを専攻していたから、METデビューは自然なこと。怖がらず、自由に演じ、オペラ界へのチャンスをつかみなさいと助言したのよ」。フレミングにも引けを取らない絹のような柔らかな美声と堂々とした演技が光っていた。

「大きなグラスでシャンパンを飲むような楽しい舞台」だというストローマン。高級なグラス自体がオペラなら、彼女が運んだブロードウェイはいい香りのするシャンパンだ。何回でも飲み干したい。ぜひ、映画館で味わってほしい。


写真(C) Ken Howard/Metropolitan Opera