2013年2月27日水曜日

シナトラ率いる"ラット・パック"の時代と《リゴレット》


今回、METが新演出で贈るヴェルディ《リゴレット》の舞台は、16世紀北イタリアのマントヴァから、400年の時代を移し、1960年代のネオンきらめくラスベガスへ―――。

演出を手掛けるのは、ミュージカル「春のめざめ」でトニー賞を受賞し、「アメリカン・イディオット」などのヒット作を連発するブロードウェイの鬼才、マイケル・メイヤー。彼は、この《リゴレット》というオペラを、現代人がより身近に共感できる作品にするため、16世紀のマントヴァ公爵が浸る快楽の世界を、カネ・権力・セックスが渦巻く1960年代のラスベガス---ある意味、20世紀のアメリカの象徴のような場所---に設定しました。

1960年代のラスベガスでは、カジノやホテル、華やかなショーを仕切りるマフィアが街を支配していました。そんな街でカリスマ的存在だったのが、フランク・シナトラ率いる"THE RAT PACK(ラット・パック)"というグループです。フランク・シナトラをリーダーに、俳優のディーン・マーティン、ピーター・ローフォード、エンターテイナーのサミー・デイヴィス・Jr.などを中心メンバーとして、ラスベガスやハリウッドでショーの公演を行い、公私ともにやんちゃで派手な振る舞いで幅を利かせていました。「オーシャンと11人の仲間たち」(映画「オーシャンズ11」のオリジナル作品)といった映画にも多数出演。マフィアや政治家などとのコネクションも噂され・・・、望むものが全て手に入るような時代の寵児だったのです。演出家のメイヤーは、今回の演出で、マントヴァ公爵を、このシナトラのようなカリスマ的なスターという設定にし、新しい《リゴレット》の世界を創り上げました。



華やかなショービジネスやカジノのきらめきの下で、男たちの欲望が渦巻く街を背景に、原作と変わらぬ「退廃」、「誘惑」そして「復讐」のドラマが展開していきます。ヴェルディの不朽の旋律とともに描かれるこの独創的な《リゴレット》は、より鮮やかに、より痛切に現代を生きる私たちに迫ってくる舞台になっています。ぜひお見逃しなく。

写真(C) Ken Howard/Metropolitan Opera