チェコを代表する作曲家ドヴォルザークが手掛けた10作を超えるオペラの中でも、《ルサルカ》はロマンティックで親しみやすい音楽から、最も人気のある作品です。水の精の伝説をもとに、若い詩人クヴァピルが執筆した台本を気に入った彼は、故郷・南ボヘミアにある自然豊かな美しいヴィソカー村の別荘で、わずか7ヶ月の間にこのオペラを書き上げました。この名作が生まれたゆかりの地・ヴィソカーについてご紹介します。
ヴィソカーの別荘の近くにあるドヴォルザークの記念碑 |
ヴィソカーはプラハの南西60キロほどに位置する、小高い丘に緑豊かな美しい景色が広がる小さな村。ドヴォルザークが20年以上にわたり暮らした第二の故郷として知られています。
1878年、ドヴォルザークの義兄コウニツ伯爵は小さな湖が点在する森の外れに、屋敷を建てました。定期的にそこを訪れていたドヴォルザークでしたが、やがて義兄より土地の一部を譲り受けます。そこに居心地のよい田舎風の別荘を建て、ガーデニングや鳩の飼育など、心から好きなことを満喫しながら時間を過ごしました。もちろん、作曲もそのひとつでした。その別荘は「Villa Rusalka(ヴィラ・ルサルカ)」と呼ばれています。
ルサルカの湖 |
ヴィソカーの風光明媚な情景や環境は、キャリアの円熟期を迎えたドヴォルザークの創作の源と深く結びつき、彼は作曲家としての絶頂期をこの土地で過ごします。《ルサルカ》や《アルミーダ》などのオペラから、交響曲第7番・8番、スラブ舞曲集など、30作以上の作品が生み出されました。
国際的に成功し、アメリカに渡りさらなる飛躍を遂げたドヴォルザークですが、帰国後は心休まるヴィソカーの別荘で晩年まで過ごしました。友人への手紙にこう記しています:「ここにいると、私は幸せを感じる・・・」
ドヴォルザーク記念館となっている屋敷 |
義兄が当時建てたネオ・ルネッサンス風の屋敷は、現在「ドヴォルザーク記念館」として一般公開されています。プラハへご旅行の際は、ヴィソカー村まで少し足を伸ばして、「ルサルカの湖」のほとりに佇みながら、《ルサルカ》の世界に浸ってみてはいかがでしょう。〈月に寄せる歌〉の美しく切ない旋律が聴こえてくるかもしれません。
写真提供 チェコ政府観光局