2014年4月25日金曜日

《ラ・ボエーム》みどころ:フレッシュな人気歌手が勢揃いした必見の舞台!

石戸谷結子(音楽ジャーナリスト)

 小雪のチラつくクリスマス・イヴの夜。貧しい芸術家がたむろする、パリのカルチェ・ラタンの片隅で、詩人のロドルフォとお針子のミミは、ひと目出逢った瞬間、宿命の恋に落ちる・・・。プッチーニの大傑作《ラ・ボエーム》は、まさにオペラの中のオペラ。甘く切なくやるせない、美しくもはかない若者の恋を描いた本物の純愛物語だ。 

屋根裏部屋に住むミミは、蝋燭の灯を借りにロドルフォの部屋をノックする。風で灯が消え、真っ暗闇の中で二人の手が触れ合う。「なんて冷たい手、ぼくに温めさせてください」とロドルフォが歌い出し、それに応えてミミは〈私の名はミミ〉と自己紹介する。最高の聴きどころとなる2つのアリアだ。

 こんな美しいラブストーリーの場合、演じる歌手はとても重要だ。声ばかりでなく、若さと容姿も絶対条件になるからだ。今回のプロダクションは若手で人気の美男美女ばかりが、ずらりとキャスティングされている。ロドルフォ役は輝かしい高音と情熱的な歌唱が持ち味の、甘いマスクのイタリア男、ヴィットーリオ・グリゴーロ。 

 ミミ役のクリスティーヌ・オポライスは、ラトビア出身で超一流歌劇場で活躍する実力派の美人ソプラノ。ライブビューイング収録当日は、予定されていたミミ役のアニータ・ハーティッグが流感でダウン。前夜《蝶々夫人》を歌ったばかりのオポライスに、翌朝オファーが入り、急遽代役をつとめたのだ。24時間に2つの役でMETにロール・デビューしたのは、MET史上初のことだという。 


オポライスは緊迫感のあるよく透る声を持ち、演技力も抜群。楚々として芯のある、けなげなミミ役にぴったりで大喝采を受けた。ムゼッタは、いまやMETのアイドルになった若くキュートなスザンナ・フィリップスが好演。マルチェッロ役はイタリアの美声バリトン、マッシモ・カヴァレッティ。フレッシュな顔ぶれの若々しい華やかな舞台に、METは大興奮に包まれた。
 
MET版《ラ・ボエーム》のもう一つの見どころは、名監督ゼフィレッリが手がけた、METの顔ともいわれる大掛かりな伝説の舞台。細かい小道具にもこだわるリアリズムを追及した第1幕は、雑然として本物の屋根裏部屋のように古めかしい。第2幕のカルチェ・ラタンの雑踏は、総勢数百人が乗るという2 階立ての大舞台。幕が開くとその豪華さに必ず大拍手が巻き起こる。幕間の休憩では、人を乗せたまま移動するみごとな場面転換も見どころだ。
 
 激しくもはかない恋に酔いしれ、プッチーニの甘い旋律をじっくり味わいたい方、この《ラ・ボエーム》は必見です。
(c)Marty Sohl/Metropolitan Opera
(c)Jonathan Tichler/Metropolitan Opera