國土潤一(音楽評論家)
“コジ・ファン・トゥッテ”=「女はみなこうしたもの」という題名を、あなたはどう思いますか?
美しい姉妹を愛した士官2人が、老獪な哲学者とその貞節を試す賭けをして、変装してお互いの恋人を誘惑する。18世紀のナポリを舞台としたこの人間喜劇は、天才モーツァルトの偉大な人間讃歌でもあります。なぜ舞台がナポリなのか?恋人を試す2人は、なぜアルバニアの紳士に変装し誘惑したのか?2人と賭けをした哲学者ドン・アルフォンソは果たして本当に賭けに勝ったのか?そして、題名にある「女はみなこうしたもの」。ならば、男はどうなのか?
すべてはモーツァルトの天衣無縫な音楽の中に答えが隠されているのです。そして、その意味に気付いた時に、我々はこのオペラにモーツァルトが込めた偉大な人間讃歌の素晴らしさに心からの感動を知るでしょう。
指揮を執るのは、METの帝王ジェイムズ・レヴァイン。健康上の理由で休養していたレヴァインの2シーズンぶりの復帰姿は、オペラ・ファンにとっては、待望のもの。軽妙洒脱な音楽の中に、人生の機微と限りない優しさを込めたレヴァインの入神の指揮は、作品の本質を鮮やかに浮き彫りにします。サンフランシスコ出身の演出家レスリー・ケーニッヒのオーソドックスな舞台も見ものです。この「しょっぱいハッピーエンド」のドラマには、ナポリの海と太陽が不可欠なのです。女性演出家ならではの細やかな演技への配慮も、モーツァルトの音楽への敬意と配慮に溢れています。
世界で最も豪華なオペラハウスであるMETならではの歌手陣も目が放せません。フィオルディリージとドラベッラの姉妹には、アラバマ生まれのスザンナ・フィリップスと地元ニューヨーク出身のイザベル・レナード。美しい容姿と声、そして音楽性を併せ持った2人は、MET期待の若手ですが、そのヴィブラートの揃え方まで含めて、最高のモーツァルト歌唱が堪能できます。この2人の相手を務めるフェランドには、アメリカを代表するリリック・テノールのマシュー・ポレンザーニ、グリエルモには、METの注目株であるモスクワ出身のロディオン・ポゴソフ。ポレンザーニの真面目さとポゴソフの飄々とした味わいの対比も見ものでしょう。
この2組の恋人に、人気のダニエル・ドゥ・ニース演じる姉妹の小間使いデスピーナと、哲学者ドン・アルフォンソ役を演じるマウリツィオ・ムラーノの人間味溢れる役作りが、ドラマの奥行きを生み出しています。
METならではの《コジ・ファン・トゥッテ》に酔い痴れてください。
METならではの《コジ・ファン・トゥッテ》に酔い痴れてください。
(c)Marty Sohl/Metropolitan Opera
(c)Koichi Miura/Metropolitan Opera